大奥にまつわる怪談話も幾つかあるようですが、この記事では「文政奇談夢物語」という史料に載っていたという怖い話をお伝えします。

行方不明になった「あらし」。天守台から降ってきた惨殺死体

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5月のある日のこと、大奥から「あらし」という名前の女中が姿を消しました。

その日は、あらしは朝から姿が見えませんでしたが、初めは誰も気に留めていませんでした。

話し好きの女中だったため、「どこかで油でも売っているんだろう」と思われたのです。

ところが夜になっても、翌日になっても、あらしは帰ってきません。

表の男性役人たちも動員して、大奥内を大捜索しました。

二十五か所ある井戸や天井裏、縁の下まで。

ところがあらしは、どこにも見つかりません。

そんな、あらしの失踪から3日たった夜のこと。

天守台の見張りの者が、頭上から謎の声を耳にしました。

「あらしはここに、ここに・・」

そう聞こえたので見張りが見上げると、頭上から何か大きなモノが投げ落とされました。

下へ行ってみると、それはなんと・・

失踪したあらしの死体だったのです。

しかも、何かにかきむしられたように、全身が傷だらけの血まみれ。

あらしは常々、「天守台に登ってみたい」と言っていたのだとか。

「魔物が、死の代わりにあらしの願いを叶えたのではないか」

大奥ではそんな風にささやかれ、恐れられたと言います。

駕籠の中で見つかった女中の死体

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文政4年の6月のこと。おりうという御祐筆(文書や手紙、日記を代筆する役)の部屋方の女中が姿を消しました。

1日たっても戻ってこないため、この時もあらしの時と同様に男性役人が入って捜索しましたが、どこにも見つかりません。

4日目になり、乗り物の中まで念のため確認してみようということになりました。

乗り物とは、御年寄りなどの役職の高い女中が乗る駕籠のことです。

すると、藤島という中年寄の乗る駕籠を開けたとき・・

その行方不明になっていた女中が、あおむけになり、血だらけの上衣服をとられて死んでいたのです。

犯人や殺された理由が不明のこの事件は、あらしの時と同様に「魔物・化け物」の仕業と噂されました。

☆☆☆

大奥にはこのような謎の他殺事件のほか、自ら命をたってしまう事件も多発していたようです。

女性ばかりで身分の差もはっきりとした閉鎖された空間。

その中で生きるのはきっと大変なストレスだったので、このような事件も起こりえたのでしょうか。

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