江戸時代、遊郭の遊女たちが特別な男性への愛情を誓うことを「心中立て」と言いました。
この「心中立て」、様々な方法がありましたが、誓いへの信用度を高めるために肉体的な苦痛を伴うものがほとんど。
もっともエスカレートした心中立ての方法が「心中」だったのです。
遊女が愛を誓う「心中立て」の方法
起誓(きせい)
もっとも簡単な心中立ての方法に、「起誓」というものがあります。
これは紙に書いて誓いを立てるというもので、その種類には「誓紙」「血判」がありました。
誓紙(せいし)
誓紙は熊野の牛王(熊野神社の厄除けの護符)が使われました。
この誓約書の裏に愛の誓いを記して交換しますが、2人の仲がこじれた時はこの誓約書を横に半切りして上半分だけを返し、下の部分は自分の手元に残して置くという決まりでした。
血判(けっぱん)
紙に誓うだけでは信用できないとなると、さらにそこに血判をすることになります。
血を出す指は、男性は左の中指か薬指。
女性は右手の方でした。
初めのころは小刀かカミソリなどで切って血を出しましたが、後には針を用いるようになりました。
体の一部をささげる「髪切り」「爪剥ぎ」「指切り」
血判の苦しさだけでは相手のことが信じられなくなると、今度は体の一部を捧げさせることで誓いを立てようとしました。
初めのうちは「髪切り」
体の一部を捧げるもののうち最も軽いものが「髪切り」です。
髪切りにも様々な種類があり、
「初切り」
「二度切り」
「しのび切り」
「切がえ」
「夢の枕切り」
「恨みのそえ髪」
などがありました。
どの場合も、切るときには自分で切らずに、相手の男性に切ってもらいました。
大きな痛みを伴う「爪剥ぎ」
髪を切るだけでは足りない場合、行ったのが「爪剥ぎ」です。
非常に大きな苦痛を伴うので、誓いへの信用は高いものでした。
ただし女郎の中には爪を上手に二枚に剥いで痛まないようにする方法を行っていたものもいて、これも信用されない場合がありました。
重大な決意を示す「指切り」
相手に愛の誓いを信じさせる最も過激な方法は、「指切り」でした。
これは文字通り「指」を切り相手に送るというものですが、たいていの場合切り取られたとき本人は気絶してしまったそうです、
しかしこの方法も、次第に「他人の指を買って送る」という誤魔化しが生まれてしまいました。
入れ墨をほる「起誓彫り(きせいほり)」
これは現代でも使われる「愛の誓い」の方法ですが、相手の名前を自分の体に入れ墨で彫るというものです。
入れ墨をいれる部位は腕が一般的でしたが、中には股間やその周辺に彫った遊女もいたそうです。
究極の愛の表現「心中」
相手への愛の誓いの究極な形として、愛する相手とともに命を絶つ「心中」が心中立ての方法として出現したのは、元禄のころです。
この頃には幕府の基盤も安定し、人々は享楽的に生きるようになりました。
その世相を反映し男女の恋愛が活発になったのですが、性的逸脱を防ぐために取り締まりが厳しくなります。
こうして悦びを求める若者たちは厳しい現実から逃避して、死を選ぶように。
現代でも自分以外の誰かと死を選ぶことを「心中」と言いますが、これは遊女たちのした「心中立て」のたくさんある方法の一つだったのです。